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February 21, 25

感じるままに、好奇心の赴くままに。沖縄県玉城百名で、訪れる人のありのままを受けとめる宿「mui」と花ノ家族婚でつくる結婚式

イラスト:坪田 朋子

 

沖縄の豊かな自然が残り、琉球創世神話の舞台としても知られる神秘の地「玉城百名」。歴史と文化の薫る集落のはずれに、夫婦が営む4棟建ての小さな宿があります。

宿の名は「mui たびと風のうつわ」。

「mui」の元となっている「無為自然」の言葉どおり、ここでの過ごし方に決まった正解はありません。訪れた人は、沖縄の風土と宿といううつわに包まれ、好奇心の赴くままに、自分なりの喜びや気づきを発見していける場所——。

この度、花ノ家族婚を提供する花ノ結婚式屋は、「mui」とともに新たな結婚式をつくることが決まりました。これを機に「mui」を営む西悠太さん/美冴さんご夫婦と、花ノ結婚式屋の代表・伊藤良樹さん/プロデューサー・由比ヶ濱さんによる対談を実施。

「mui」の開業経緯や込められた思い、ともに結婚式をつくることになった背景、すでに一度行った結婚式の感想、そして、両者でつくる新しい結婚式の方向性について、感じるままに語っていただきました。

 

沖縄の原風景にいざなわれた夫婦がつくる、無為自然な空間


——まず、悠太さんと美冴さんに「mui たびと風のうつわ」のコンセプトやこだわりについてお伺いしたいと思います。どのような思いでこの宿をつくられたのでしょうか?

悠太さん:「mui」は、旅好きだった僕たちが、「泊まってみたい」と思える宿をかたちにしたものです。他の有名な宿やホテルを徹底的に分析してつくったわけではなく、自分たちの好奇心に従い、初心者なりに試行錯誤を重ねてつくりました。

「mui」という言葉は「無為自然」から取っていて、「作為がなく、ありのまま」という意味を持ちます。「お客様にこの世界観をこう味わってほしい」といった、決まった型はないんです。訪れるお客様の“たび”と、沖縄の風土という意味の“風”。それが「mui」という“うつわ”に盛り付けられて、そこで沸き起こる自然な感情や能動的な行動が、素敵な体験につながってほしいと思っています。

そのため、空間もパキッと役割をわけず、境界を曖昧にしています。全部で4棟あり、各棟はプライベート空間として仕切りながらも、その間は天高な共用空間でつながっている。ラウンジ、カフェ・バーとして利用できる囲炉裏のある共用空間は、宿の外にもつながっていて開放感があるつくりになっています。

mui たびと風のうつわ。共用空間は、宿の外にもつながっていて開放感があるつくりになっています

また、「mui」は、僕らがこの地域で好きになった様々なもので彩られています。美しい器も、目覚めのコーヒーも、朝食に使うソーセージやハムも、バーで出すクラフトビールも、すべて僕らが沖縄で出会って「シェアしたい」と思ったもの。「mui」を通じて、玉城百名という地域とつながってくれたら、これほど嬉しいことはありません。

——この場所では、どう過ごしても、何とつながってもいい。その人なりの価値を受け取れる場所なんですね。「mui」をつくられた経緯も教えていただけますか?

悠太さん:僕たちはもともとサラリーマン夫婦で、従業員が数千人規模の日本の大企業で働いていました。僕は約10年、妻は約5年勤めていましたが、先輩たちの姿を見ていると、自分たちの20年後、30年後がある程度想像できてしまう。それに、どこか焦りを感じていたんです。

そんな中、ちょうど二人目の子どもを授かりました。子どもが生まれると、会社を辞めることがますます難しくなるし、定年後に新しいことを始めるにも、できることは限られてしまう。だからこそ、子どもが生まれる前の今が、予想できない未来に向かって挑戦する最後のチャンスだと思い、何をやろうか妻と話し合いました。

——その段階では、まだ宿をつくることは決まっていなかった。

悠太さん:そうです。宿をつくろうと思ったのは、僕の姉が玉城百名にある「浜辺の茶屋」という30年の歴史あるカフェに嫁いだのがきっかけでした。姉に会いに遊びにいくようになって、この地域に惹かれたんです。「こんな場所で暮らして子育てしたい」と話すうちに、自分たちの好きな旅の要素と掛け合わせて、宿をつくってみようとなりました。

美冴さん:当時は、一人目の娘がまだ2歳で、私自身も妊娠7ヶ月。移住するだけでも大変でした。それでも思い切って、スズキのハスラーに全員で乗って、当時住んでいた場所から沖縄まで1ヶ月かけて移動したんです。途中、友人や親戚の家を訪れたり、鹿児島の港からフェリーに25時間乗ったり、移住というか旅でしたね。

悠太さん:あれは大変だったよね(笑)。

「mui たびと風のうつわ」オーナーの西さん。花ノ結婚式屋とのパートナーシップについての対談風景。

——大変でも住みたいと思った「玉城百名」という場所。どんな魅力を感じたんですか?

悠太さん:当時は言語化できていなかったですが、振り返れば、「浜辺の茶屋」をはじめ歴史や文化が残る風景に沖縄のリゾートのイメージが覆されたんだと思います。

僕自身は、チベットやインドのような原始的な風景や「祈りの風習」が残る場所が好きなんですが、玉城百名にもそれがある。海にはヤハラヅカサという塚が、山には浜川御嶽という祠があって、どちらも琉球の琉球創世神話で神が降り立った場所として、今でも祈りの対象になっています。そうした文化が根付くリアルな沖縄の空気感に魅了されたんです。

美冴さん:当時は直感で移住してきただけ。でも、住むうちに本当にいい場所だと感じて、この地域で宿ができる土地を探すことにしました。

 

「mui」は訪れる人をありのまま受けとめ、表現を変えていく


——機会にも土地にも導かれて、結果として今の「mui」があるんですね。お二人の価値観、宿のできた経緯やコンセプトに一貫したものを感じます。宿ができてからの話も教えてもらえますか?

悠太さん:初心者二人で始めたので、当初は右も左もわかりませんでした。2021年3月のコロナ禍にオープンしたこともあり、不安しかなかったというのが本音です。

ただ、自分たちの感覚に従って、こういう宿にしてみたらどうかということを少しずつ試して、失敗も繰り返しながらやってきました。そのうち宿泊してくださる方が増えて、「いい宿だね」と褒めてもらったことで、自信や勇気が湧いてきて。本当にこの3〜4年は、周りに助けられながら足場を築いた日々でした。

今でも「mui」が完成したとは思っていません。一昨年から去年にかけて、僕ら夫婦以外に2名の新メンバーが加わったんです。彼女たちの存在によってさらに表現したいことも変わっていくと思います。まだまだ変化できるし、成長できると思っています。

——どんなメンバーが、どんな経緯で訪れたのか興味があります。

美冴さん:大々的な求人を出すのはなんか違うなと思い、自分たちの周りの人に「いい子いないですか?」と聞いていたんです。一人目にきてくれた子は、常連のパティシエの方が紹介してくれました。その子は常連のパティシエのお弟子さんというか、前職の後輩のパティシエで、ちょうど仕事を探してるタイミングでした。

悠太さん:「mui」を理解してくれている常連さんからの紹介というのもあって、会ったその日に「この子だ!」と思いました。「沖縄に来てほしい」とその場で伝えたところ、1週間くらい検討してから「行きます」と言ってくれました。

「mui」は豊かな沖縄の自然に囲まれている

「mui」は豊かな沖縄の自然に囲まれている

——お客様からつながった新たなメンバーにより、宿が拡張されていくのって、すごく「mui」らしいですね。二人目の方との出会いはどのようなものだったんですか?

美冴さん:二人目の子は、去年の6月くらいにインスタグラムで発信した清掃スタッフのアルバイト募集に対して、「千葉県に住んでいるけれど働きたいです!」と熱烈なメッセージを送ってきてくれたんです。

悠太さん:アルバイトのために、わざわざ千葉から引っ越そうとするなんて、驚き半分、少し怖さも感じました(笑)。でも、そこまで思ってくれるなら、一度会ってみようかという話になり、1〜2ヶ月後なら来られるということに。でも、僕らとしては、家庭と宿で手一杯ですぐにでも助けが欲しかった。なので「こちらに来るまでに他の方が決まっちゃったらごめんなさい」と伝えたんですが、奇跡的にスタッフの採用が決まらなかった。

そこで、改めて声をかけてみたら、またすごい熱烈な文章を送ってきてくれて。沖縄まで飛んできてくれました。後から聞いたんですが、面接のために、憧れていたけれど手が出せてなかった高い服を買ったそうです。すごい熱量でしょう(笑)。

美冴さん:実際に会ってみたら、二人とも「一緒に働きたい」って思うような子だったので、その場で採用が決まりました。しかも、アルバイトではなくて従業員として。こんなにいい子が「mui」以外の仕事を掛け持ちにするのは、本人にとっても私たちにとっても、もったいないと思ったんです。彼女はその時勤めていた会社を辞めて、昨年の12月からスタッフとして働いてくれています。

muiのスタッフの皆さんの写真

パティシエの植田さん(左)、スタッフのゆいさん(右)

——一人ひとりに濃い物語がありますね。「mui」で働くメンバーに求める資質みたいなものはありますか?

悠太さん:そこは、あんまりないんですよね。もちろん「mui」を好きであってほしいけれど、熱狂的なファンであってほしいとまでは思っていないし。ここで働くことが「心地いい」と感じられる子というのはありますけど……。

「mui」のコンセプトにもつながるかもしれないですけど、僕は根本的に「人は他人を幸せにはできない」って思っているんです。幸せを感じるスイッチは自分で入れるしかない。周りの人ができるのは、きっかけをつくることくらいだと思います。

だから、「mui」や僕らが、「彼女たちを幸せにしてあげないといけないと」と気負ってはいないんです。あくまで彼女たち自身が幸せな人生を切り開くきっかけとして、僕らがいるだけ。そんな、上下のないフラットな感覚で、お互いの色を出し合いながら宿をつくっていける人がいいのかなと思います。

 

空間に包まれ、焚き火に揺られ、家族がひとつになった瞬間


——働く人に対しても、価値観や正解を押し付けたりしない。うつわとして、来る人を受けとめながら、変化していくのが「mui」なんですね。では、ここからは花ノ結婚式屋のメンバーから、ともに結婚式をつくることになった背景を教えてください。

伊藤さん:正式に、今後も一緒に結婚式をつくっていこうという話をさせていただく前に、すでに一度結婚式をしています。そのきっかけは、花ノ結婚式屋に相談に来てくださった新郎新婦が、「muiで挙げたい」と話してくれたことです。僕も以前から「mui」さんのことは知っていて、素敵な宿だなと思っていました。

正式なオファーに至ったのは、その1回目の結婚式が素晴らしいものだったからです。特に、共同空間にある焚き火をご両家で囲んで話している時の空気感や雰囲気。それを囲むうちのスタッフや西さん夫婦の表情が、「花ノ家族婚が目指しているものに近い」と感じました。

僕は映像を見てそう思ったんですが、現場にいた花ノ結婚式屋のメンバーもみんな同じような手応えを感じたようで、式後に改めてご相談させていただいたんです。

——その式を担当したのは、プロデューサーの由比ヶ濱さんですね。どんな結婚式だったのか教えてもらえますか?

由比ヶ濱さん:今回は2泊3日を「mui」で過ごす花ノ家族婚でした。初日は特にプログラムを用意せず、それぞれのご家族で食事を楽しんでいただいてから、両家で焚き火を囲んでいただく。2日目は、ヤハラヅカサや浜川御嶽などでロケーション撮影に。宿に帰ってから挙式を行い、その後に両家でお食事をしました。最終日は、お二人がここでの出来事を思い返せるように、参列者のみなさんに3日間で感じたことメッセージとして綴っていただきました。

花ノ結婚式屋のプロデューサーの写真

当日、お二人の様子を見守る由比ヶ濱さん

——結婚式をつくる過程や、2泊3日のなかで印象に残っていることを教えてください。

由比ヶ濱さん:去年の7月、フローリストの仲村とともに「mui」を初めて訪れました。悠太さんから「mui」の背景や考え方を聞かせてもらってすぐ、「まずは、お二人が『mui』といううつわに包まれるような式にしよう」と決めました。西さん夫婦のつくられた空間を純粋に味わうことで、お二人が受け取れるもの、気付ける感情があると確信したんです。

だから、初日はあえてプログラムを用意しませんでした。ご家族でただ単に料理を楽しんでいただいてもいいし、自然とご家族の気持ちに何かしらの変化があってもいいと手放したんです。それが終わって、ご両家で焚き火を囲む時間に。お二人の結婚までの経緯を知る私からしたら、「実現して本当によかった」と感じる瞬間となりました。

——その瞬間が特別に感じたのは、何か背景に物語があるんでしょうか?

由比ヶ濱さん:実は、新婦のお父様がお二人の結婚式を認めるまでに2年間もかかったという背景があるんです。新婦さんから紹介された初めての彼氏が新郎さんだったらしく、お父様はすぐには受け入れられなかったといいます。でも、会うたびに誠実さを感じる新郎さんの姿に、お父様の心も少しずつ解けていって、2年後にようやく結婚が許されました。その後の両家の顔合わせでは、新婦お父様から「(長い間反対していて)申し訳なかったです」と伝える場面があるなど、結婚式に向けて少しずつ、両家の距離が近づいていったんです。

muiでの結婚式。花ノ結婚式屋が創り出したのは、両家が打ち解け合う焚き火を囲む時間。

迎えた当日。焚き火の時間になると、新婦のお父様は、地元の熊本名産の辛子蓮根をみんなに振る舞ってくれました。この日のために準備してくださったということで、きっと、お父様自身が誰よりこの時間を楽しみにしてくれていたんだと思います。

結婚できるかという不安があったところから、少しずつ両家の距離が近づき、結婚式当日にひとつの家族となった。

みんなで一緒に焚き火を囲むシーンは、そうした過程を象徴するものだったんです。本当に特別で愛おしい時間でしたし、プロデューサーとして「花ノ家族婚の価値」を確信できる時間でした。

 

一度きりの結婚式ではなく、宿や地域とつながり続けられる未来を


——結婚までの2年を含め、長い時間かけて積み重ねてきたものが「焚き火を囲む瞬間」につながったんですね。実際に結婚式をしてみて、西さんご夫婦はどんなことを感じましたか?

悠太さん:僕らだけでは実現できない結婚式だったと思います。単に「mui」で式をするだけなら、スタッフがいればできるかもしれません。でも、結婚式の価値とは、当日だけにあるわけじゃなくて、そこに至るまでのプロセスが8〜9割なんだと感じたんです。

花ノ結婚式屋のみなさんが、お二人やご家族の人生と向き合い、当日がどのような場になればいいかを丁寧に考えてプロデュースをしたからこそ、あの日のあの空気感は生まれたんだと思います。僕らは最後の瞬間をご一緒させていただいただけ。当日までの過程を想像すると、リスペクトの気持ちでいっぱいでした。

美冴さん:焚き火を囲んで話しているシーンを見て、涙が出ました。自分たちの結婚式を振り返っても、両家があそこまで打ち解けた瞬間はなかったような気がします。チェックインのときは少し緊張感のあったみなさんの表情が、焚き火をきっかけにどんどん柔らかくなっていって。3日目のチェックアウトでは、みなさん顔が緩んで、会場全体が幸せな空気に包まれていました。私たち夫婦も、スタッフも、この空間で一緒に過ごせたことに感謝しています。

悠太さん:それと、花ノ家族婚さんとの事前の準備において、不安をまったく感じなかったことも印象に残っています。「mui」は結婚式専用の空間ではないので、その独自性や価値観をしっかり理解していただいた上で、お二人にとって一番いい式を考えてくださったのがありがたかったです。

ロケハンや打ち合わせを重ねるなかで、式の意味や流れを丁寧に共有していただき、僕らも安心してお任せできました。最初から「絶対にいいものになる」と確信しながら進められたんです。

mui たびと風のうつわの西夫妻。花ノ家族婚での食事の時間を丁寧に準備する様子。

当日食器を並べる悠太さん、美冴さん

——花ノ家族婚では、会場となる宿とのコミュニケーションをとても大切にされていますよね。その背景にある思いを教えてもらえますか?

伊藤さん:「花ノ」という名前には、もともとお花屋から生まれたという理由に加えて、「花の都」のように“憧れを持たれる存在になりたい”という思いが込められています。

結婚式を挙げる新郎新婦だけでなく、式をつくる側にも志の高い人たちが増えることで、良い結婚式が生まれる。その循環をつくりたいと考えています。そのため、花ノ家族婚では宿と「一度きりの結婚式をつくるだけの関係」で終わらせたくありません。宿と手を取り合い、お互いが目指す未来に向かって共に歩める関係でありたいと思っています。

また、新郎新婦や参列者が、その宿のある地域ともつながれることを大切にしています。宿泊型の結婚式を通じて、地域の魅力を存分に感じていただく。その結果、お二人や参列者が記念日などでその場所に帰ってきたり、地域に足を運んでくださるような関係が生まれる。それが、未来につながる本当の「花ノ家族婚」です。玉城百名という地域のハブにもなっている「mui」さんとも、そんな未来を実現していきたいと思います。

 

根底には「家族愛」を。人と時代によりカタチを変えていく結婚式


——そろそろ終盤です。muiと花ノ家族婚の魅力がかけ合わさることで、どんな結婚式が生まれていくのかお聞きしたいと思います。

悠太さん:その前にひとつ、伊藤さんに質問してもいいでしょうか。結婚式の形は時代とともに変わってきたと思うのですが、今の時代に求められている結婚式の価値ってどんなものだと思いますか?

伊藤さん:歴史的に見て、結婚式は「さまざまな人を招いて紹介し合う場」でした。僕らの時代には「会社」や「お世話になっている方」がゲストに多く含まれていましたが、最近では友人や家族の割合が増えているように思います。また、結婚式を行わない選択をする方や、結婚式に代わる新しいカタチも増えています。「結婚式とはこういうもの」という固定観念が崩れ、良い意味で自由になってきた時代です。

だからこそ、今求められているのは「夫婦愛」「家族愛」「兄弟愛」など、普遍的なものなんじゃないかと思っています。花ノ家族婚が届けたいのも、そういった根本的な部分です。

悠太さん:やっぱりそうなんですね。ぼんやりと感じていたことが言語化できた気がします。

僕は、結婚式や建築物など、あらゆるカタチには必然性があると思っています。たとえば、沖縄の古民家が赤瓦の平屋なのは、当時の材料や技術に適していたこと、そして台風の多い気候に合った設計だったからです。

結婚式も同じで、時代によって求められるカタチが変わってきました。たとえば、大昔には部族間の争いをなくすために娘を交換するという慣わしだった。高度経済成長期には「会社」の存在感が大きく、会社の同僚や上司が重視される結婚式が主流でした。そして今は、結婚観も価値観も多様化したために、「人間にとって根源的に必要なもの」を問い直す時代に入っていると思います。その答えのひとつが、家族愛だと思うんです。家族愛は家と同じで、自分を守ってくれるものであり、多様で正解のない時代を生き抜くための土台となるもの。そんなことを、今回の結婚式を通じて感じました。

 

——多様な時代だからこそ、根を張るものとしての「家族」の価値が見直されているのかもしれませんね。では最後に、今後の展望について、それぞれの考えをお聞かせください。

伊藤さん:花ノ家族婚は、旅をするような結婚式です。それも、細かく計画を立てる旅ではなく、その時々の感覚に身を委ねる、無計画な旅に近いかもしれません。

好奇心のままに訪れた場所には、その人が本当に求めている経験が待っていることが多いんです。「mui」の空間にも、そうした発見の種がたくさん散りばめられています。だからこそ、西さんご夫婦と一緒につくる結婚式では、旅の概念が変わるような、あるいは不便さが豊かさに変わる瞬間を感じられるような結婚式を届けたいと思っています。

「『mui』のうつわに包まれる」という大前提を持ちながらも、当日のプログラムはその時々で変化させていきたいですね。悠太さん、美冴さんとも対話をしながら、その時々の感覚を大切に、心の鮮度が高い状態で結婚式をつくっていきたいと思います。

由比ヶ濱さん:今日お話しさせていただいて、改めて、muiと花ノ家族婚は根っこの部分でつながっていると感じました。だからきっと、ここに惹かれる新郎新婦も近しい価値観を共有する方なんだろうと思います。

お二人とご家族、「mui」の空間、そして関わるクリエイターが変われば、また新しい結婚式が生まれるはずです。季節が変われば、この場所の表情も過ごし方も変わってくるでしょう。春夏秋冬すべてのシーズンで結婚式をやってみたいですね。これからもワクワクしながら素敵な結婚式をつくり、ご縁をつないでいきたいです。

 

美冴さん:宿を始めた頃は、結婚式に使ってもらうなんて発想はまったくありませんでした。でも、家族婚という形式なら、4棟でも宿泊ができて、ご両家で焚き火を囲むこともできる。「『mui』をこんな形で使えるんだ」と、新しい発見がありました。これからも何かを正解と決めつけず、その時々の変化を楽しみながら、いろいろな形の結婚式ができたらいいなと思っています。引き続きよろしくお願いします。

悠太さん:先日の結婚式や今日の取材を通して、お互いの考え方や意識を共有できたことは、とても大事な機会でした。根底にある思いが共有できているからこそ、どんなお二人でも、どんな結婚式でも自然と良い形に収まっていく気がしています。結婚式を一緒につくっていく過程では、議論や問題が出てくることもあると思うけれど、共通の思いに立ち返れば必ずうまくいく。そう確信できた時間でした。今日はありがとうございました。

 

[取材・執筆・編集] 佐藤史紹

 


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