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May 30, 21

ホテルみるぞー宿泊体験記 @ume,yamazoe

ume,yamazoe

 

自然の「営み」のなかに泊まる。
星が流れる夜空、力強い朝焼け。
季節の味や香り、集う人の優しさ。

忘れられないあの日の目覚めに、
身体中が喜びで満たされたステイ。

 


 

ume,yamazoeは、奈良県山添村に2020年3月にオープンしたホテルです。このお宿を知ったのは、とあるTwitterの投稿でした。家主の梅守さんが書いた記事がシェアされていたのでした。「ご挨拶」と題されたその文章はあまりにも思いに溢れていて、ただ寝るだけの宿でないことは明らかでした。

 

 

梅守さんは記事の中で、ume,yamazoeを作った理由をこんな風に語っています。

 

『“ないもの” が “ある”からしあわせなのではなく、
“ないもの” が “ある”ことに気を留めてみてほしい』

 

ないと思っていたものが、実は身近にあったことに気づく。それは忙しく刺激的な毎日では、確かに難しいこと。でも、ちょっと不自由な奈良県の集落では、そんな隠れていたモノや、忘れていた感覚に出会えるのです。

 

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高速道路を降りて、グネグネの道をしばらく行くと、斜面にちいさな集落が広がっています。その一番上にある立派な平屋のお家が、待ちに待った「ume,yamazoe」。オーナーの梅守さんが手を振って出迎えてくれました。

 

 

古民家のフォルムをしているのに、玄関や正面の壁はガラスで作られていてモダンな佇まい。中に入るときに思わず「おじゃましま〜す」と言ってしまった。あんまりホテルに入るときに言わないセリフだけど、なんだか知り合いのお家に来たような、あばあちゃんちに遊びに来たような、親しみやすさも感じたからかもしれません。

チェックインの手続きをしながら、お茶とクッキーをいただきました。葉っぱの形をしたクッキーは、一つ一つ微妙に形が違う。村のおばあちゃん、中山さんの手作りなんだって。ほんのりお茶の苦味が効いたクッキーの、気取らない味わいにほっこりしました。

 

 

館内の案内を聞いて、早速お部屋に入ると、まず驚くのはリビングの横幅いっぱいの大きな大きな窓。そしてその向こうに広がる、集落と山々の眺め。「つむぎ」という開放感抜群のこのお部屋は、最大8名まで泊まれるそう。

 

 

私は冷蔵庫から瓶ビールとグラスを出して、窓際に座り、注ぎました。裸足で床に触れると、さらさらした木の感触が心地いい。

 

 

窓の外は雲が流れていて、切れ目から太陽が見えたり消えたり。光と風を受けて、柔らかく輝くカーテンがそよぐ。すぐそばに自然を感じながら飲むビール、あれは最高に美味しかった…。

 

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しばらくのんびりしていると、サウナの予約時間がやってきました。

私はこの時サウナビギナーだったのですが(なんなら楽しめるか不安……くらいに思っていたのですが)、もう先に言ってしまうと、ume,saunaでサウナ大好きになりました。そのぐらい、今までの私の中の「サウナ」を変えた体験でした。

 

 

ume,のサウナは本格的なアウトドアフィンランド式サウナ。中は薄暗く、薪ストーブの火がパチパチ小さな音を立てていました。

梅守さんは楽しそうに薪をくべたり、特製のお茶エキスを使ってロウリュをしながら、このサウナのこだわりや「どうしてサウナを作ったか」なんて話を聞かせてくれます。

ロウリュでお茶の香りと蒸気が回り、身体がずいぶん熱くなって、汗がたくさん吹き出てきても、ゆっくりと呼吸することができるのが不思議でした。サウナは暑くて苦しい時間に耐える修行みたいなものかと思っていたけど、「このサウナは苦しくないんですよ。」という梅守さんの言葉は本当でした。

 

 

暗く静かなサウナ室、壁の向こうからは自然の音が聞こえます。風の音や動物の声。入り口のドアから差し込む太陽の光は、少しずつ角度が変わっていく。口から出る息を冷たく感じたら、外にでて水風呂に飛び込みます。ふわふわになりながらデッキによじ上って、ハンモックで外気浴をすれば、それはもう、言葉にならない多幸感。ぐらりとする頭で、自然の中に、今居るんだ、私は…地球の一部なんだ……という感覚を味わいます。(う〜ん、最高にハイ。)

 

 

禅で言うところの「無」の意味は、何も考えないことではなく、「自分と外との境界を無くすことだ」と聞いたことがあります。このサウナでの体験は座禅に近いのだと思いました。自然との境界も、一緒に体験する人との心の壁も無くして、感じ合い分かり合えるような時間になりました。

 

 

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ととのってお腹が空いてきたので、ダイニングに移動します。ume,では、その日滞在しているゲストが、コの字型のカウンターで一緒に食事を囲むのです。そのとき、そこにしかない時間を、みんなで共有する。豊かな食卓の始まりです。

 

供されるお料理は、旬の食材、里山の幸を使った和食のコース。梅守さんがカウンターの中に入り、腕を振るってくれます。宿のオープン前に料理学校にも通ったという梅守さん、目の前で揚げてくれた天ぷらが絶品でした。

 

素材そのものの美味しさにも驚き、美味しいですねと伝えると、「これは村のあの辺りで採れる」とか、「この土地の人たちにとって春といえばこれなんですよ」とか、「〇〇さんは魚を捕まえるのが上手」とか、食材から村のことまで、色んなお話をしてくれます。梅守さんは山添村で宿をしながら、自然と遊ぶように触れ合ったり、村の人と深く関わっているのだと思いました。

 

食事のメインはお寿司!家業はお寿司の製造メーカーということで、自慢のお寿司とお茶漬けで〆ます。彩りも可愛い、玉手箱のようなお寿司の盛り合わせ。最後まで目でも舌でも楽しませてくれる夕食でした。ああ、あの時間、永遠に続いてほしかったなあ。

 

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「食事のあとはデッキで星を見ませんか」という梅守さんの誘いに、断る理由はあるはずもなく、外気浴をしたサウナの上のデッキにのぼりました。山添村は星が綺麗に見えることで全国的にも有名な場所。


 

村の夜は本当にしんとしていました。そして宿の明かりが消え、真っ暗闇のなか空を見上げた時の、あの神秘的な夜空の輝きは忘れられません。深い闇に浮かぶ、いくつもの星屑の光に吸い込まれて、自分の肉体がどこにあるのか、わからなくなるような浮遊感。星に見惚れていました。空を見ながら梅守さんと、ぽつぽつ会話をしました。中身はぼんやりとしか覚えていないけど、たしか宿のことや、私たちのこと。穏やかで心地よいひと時でした。

あの場所と時間は、宛先のない手紙。伝わっても伝わらなくても構わないけど何となく言葉にしておきたい気持ち。誰に向けたメッセージでなくても、その場の誰かか、自分に届くか、もしくは星空が吸い取ってくれる。いつもは口にしないような情緒的なおしゃべりも、ぽろっとこぼしていいと思いました。そんなことを考えながらぼんやりしていると……

 

ヒュン

夜空にひとすじ、星が流れました。それは滑るように瞬いて消えていきました。嬉しさと驚きで私はとても興奮していましたが、実は山添村では流れ星が見えるのはそう珍しいことではないらしい。「夜空はいつもある、星も流れてる。でも見えてないだけなんですよ。」と笑う梅守さんの言葉が胸に響きました。そっか、見えていないだけか。

流れ星の興奮冷めやらぬまま、お部屋に戻ってベッドに横になりました。ダイニングにたくさん本があったので、それを借りて読みながら寝ます。こういったお宿に置いてある本は、運営する人の思考の源だったりするので、読んでいて楽しいのです。

 

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ばっ!と目が覚めました。

 

それは頭より先に体が、朝が来たことに気づいたような本能的な目覚めでした。窓の外を見ると、太陽が、押し上げるように空をあかく明るくしている。手前では、まだ暗い村を白い雲が覆っている。エネルギーに満ちた、生命を感じる朝でした。

 



昨日の梅守さんの言葉が思い出されます。「見えていないだけ」。眩しい朝も、輝く星空も、身体や心が喜びで満ち満ちるような瞬間は、実はいつもある。意外と近くにあったのかもしれない。感じ取れていないだけ、そんな余裕がなかっただけ、見えていなかっただけで。
「何もない」山添村のいつも通りの一日は、そういう一瞬一瞬を「美しいね」「嬉しいね」とキャッチする力を、私の中に取り戻してくれたようです。

 

 

朝のume,yamazoeは一段と明るく、縁側はやっぱりさらさらで気持ちよく、カーテンはきらきらしていました。ダイニングには柔らかいピンク色の椿が生けてあって、朝はお座敷で朝食をいただきました。

 

 

大きな箱に入った、朝のごちそう。素材の味がどれもしっかり濃いので、味わってゆっくり食べます。鮮やかなおかずに、白い卵焼き。食後にコーヒーまで淹れていただき大満足でした。全然帰りたくない。

ume,に来て、ただ自然を感じただけでなく、自然の「営み」を堪能しました。一日の終わりから始まりの、景色の移ろい。季節の恵みと、その美味しさ。村の人たちと自然との関わり……。またこのお宿で、ゆっくりと過ごして、パワーを充電したいと思う。朝ごはんでお腹いっぱいになり、身も心もたっぷり満たされて、今日からは日常が前よりもっと色濃くなるだろう、そんな予感を胸にume,yamazoeを後にしました。

 

 

[執筆・撮影] ホテルみるぞー

 


プロフィール : ホテルみるぞー

【全てのホテルラバーへ。素晴らしいホテルで、特別なひと時を過ごせますように】との思いを胸に、ホテル業に勤める身としてサービスマンの目線も織り交ぜながら、実際にお邪魔したホテル・旅館での体験をSNSなどで愛を持ってレポートしている。

Instagram : @hotel_miruzo

Twitter : https://twitter.com/hotel_miruzo?s=20

note : https://note.com/chichi_to_hotel